-想い-

ソファに座って、本を朗読する。
瞳を瞑って静かに聴いている人の顔を、密かに眺める。

「-」
「ありがとう、ジュールは本当にいい声をしているね」
「…」

兄は、夜眠る前にこうして本を読んでもらうのが好きだった。

トトがベッドに座る。
その横に腰掛けた。

「…ジュール」
何かを言いたげな瞳。

「おやすみなさい」
ゆっくりと、抱きしめる。

「うん」
トトは横になった。


「ジュール…また明日も来てくれる?」
「はい、必ず参りましょう」

無防備なトト。
「・・・・」
動かないジュールを見て、トトは不思議そうな声を出した。
「…ジュ…?」

「では、また明日」

扉を閉める音が普段より強かったのか、バタンと音がした。




「・・・ふぅ」

部屋に帰ったジュールは、着替えもせずにベッドに突っ伏した。

-私は、何をしようと…-

瞳を閉じたトト。
少しばかりはだけている寝着。

-もっと、見たい-

着物に手をかけている自分を想像した。

-もっと、触れたい-

強い力で肌を撫で回す手。

望んでいないかもしれない行為なのに。


昔から、こうして身体だけが暴走しそうになる。
そのたび、自分がおぞましく感じられた。

こんなの愛情じゃない!

枯渇している喉を掻き毟った。

父と母がおこなった愚かしい行為を繰り返そうというのか!
愛情と偽って人を蹂躙するような真似を!

-こんなの望んでいない-





「ジュージュ…」
「ジュージュ…」
「ん?」
「もう、朝だよ。というか昼前」
「・・でも、まだ眠い」

上に乗っているトトはちょうどいい重さで、暖かい。

「じゃあ、私ももう少し寝ちゃおう」

トトの息が肌にかかる。
何も着ていないトトの背中を撫でた。

「その前に一度だけキスをしてよ」
「ん、いいよ」

ゆっくりとトトが起き上がるのがわかる。
暖かいものが降りてきて、私を覆う。

「大好きだよ」
「ここにいて」

「…幸せなんだ」



あなたといると幸せなんだ…。





目を覚ますと、一人きりの冷たいベッドが現実だった。

「…トト」

涙が頬を伝わった。
愛しい人の名を口の中で噛み締めながら、自分の身体を爪で掻き毟った。

夢はいつだって叶わないのだから。

来ると聞いていた父は来なかった。
母は、報われぬ想いを抱えたまま死んだ。

私は…



あなたにとって一番優しい恋人になりたかった。
    END